阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 中田成慶
PCR検査体制の極端な不備が院内感染の拡大を引き起こしている
臨床診断適合者だけにPCR検査を制限
「診断なくして治療なし」は医療実践の基本原則ですが、コロナ対策では「診断なしで診療を行う」ことが「正しい」とされる非常識がまかり通っています。
3月、WHOのテドロス事務局長は、全世界に向けて『TEST、TEST、TEST!』と連呼し、その重要性を訴えていましたが、その段階でも、日本ではCT検査でコロナに特有な肺炎像がなければPCR検査を行ってもらえない状態でした。
大病院では自前・病院負担で全入院患者に対する入院前PCR検査を実施し始めている
現在では医療機関から申し出があれば検査が可能な届け出制になっていますが、届け出には理由が必要で、コロナの疑い症状がなければ検査は行ってもらえません。ウイルスを排出している患者さんが、骨折や虫垂炎で入院しなければならない場合、院内感染が発生するのは火を見るより明らかです。このような体制不備が、現在も、これからも院内感染をもたらすのです。日本における院内感染の多発の現状は、病院内の感染対策の遅れや不備にあるのではなく、PCR検査体制の不備・キャパシティーの低さにより、PCR検査に基づいた、根拠のある、真に有効な、必要十分な感染対策が行えていない事に原因があります。
倒錯した論理 「PCR検査が医療崩壊をもたらす?」
PCR検査の拡充を求める医療現場の声に対して、「いたずらな検査拡大は医療崩壊を招く」「コロナに有効な薬はないから、軽症者を診断することに意味はない」「検体採取時にエアゾルを撒き散らし、かえって危険」「PCR検査の感度はせいぜい70%であり、偽陰性が混乱を招く」などの倒錯した意見があたかも正当な考えであるかのように流布され、我が国のPCR検査体制の世界基準からはかけ離れた不備・能力不足を指摘し、その強化・拡充を求める医療現場の声は無視され続けてきました。
政府専門家会議 院内感染は、クラスター発生後の事後処理で対応可能との見解
5月29日開催の政府専門家会議の見解では、院内感染対策として、職員のロッカーでの接触や、キーボードの消毒清拭や、休憩室の狭さなどへの対応がポイントであるとし、病院と職員の感染防止策の不徹底が原因であるかのように記述し、病院側への責任転嫁を行っています。
しかも、院内感染対策のポイントは、「クラスターを制御できれば感染拡大を一定程度制御できる」「院内感染がおこっても迅速に介入することで、早期収拾ができることがわかった」、PCR検査が「感染力の高い人を探知できるという特性を生かし、二次感染が起こる可能性が高い院内・施設内での感染防止に向けて、積極的に活用」と記載され、院内感染は防止の対象ではなく、事後対策の対象とされています。
クラスター対策の意義を否定するものではありませんが、5月29日の状況分析・提言でも、院内感染の多発する状況をクラスター対策としてしか見ておらず、積極的な防止のための対策は何も示されていません。
政府・専門家会議のPCR検査体制整備の決定的な不備・遅れに対する反省・総括とその体制整備が焦眉の課題であるとの認識は示されておらず、その方向性も出されていません。本当に対策が遅れています。
PCR検査を院内感染防止・予防対策に活用すべき
武漢では約1000万人の市民全てにPCR検査が行われ、有症状者なし、無症状でのPCR陽性が300人発見されたと、6月3日の報道が伝えています。日本におけるPCR検査体制の貧弱さとは対照的です。世界標準からのこの格差を認識し、多発する院内感染を防止・減少させるために、最低でも、入院前の患者さんおよび、手術前の患者さん全員のPCR検査、コロナ陽性患者だけでなく、疑い段階の患者さんとその接触者に対する広い範囲での(濃厚接触者に限定しない)経時的なPCR検査を行う体制を早急に整備する必要があります。
検査体制の整備を怠るという誤ったコロナ対策の結果として、院内感染が多発し、患者および第一線で奮闘する医療従事者、医療機関が大きな犠牲を払わされている現実は続きます。政府と感染対策本部・専門家会議が、これら全てを払拭する新たな対策を打ち出さなければ、第2波以後の流行の抑制、院内感染防止、コロナとの共生・共存の新しい時代を作り出すことはできません。
加えて、PPE の不足があります。さらに、院内感染が発生した病院に対する風評被害、バッシングは目に余るものがあります。ノーベル賞山中伸弥先生は、提言の中で、「医療や介護現場における検査体制を強化し、クラスター発生を予防 ・医療従事者や介護職員に対する防御具や手当の充実・医療従事者や介護職員に対する偏見、差別の撤廃」と訴えておられます。
小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状
5月15日日本医師会COVID-19有識者会議および日本小児科学会が発表しました。
  • COVID-19患者の中で小児の占める割合は少なく、また、そのほとんどは家族感染
    COVID-19患者の中で小児の占める割合は少なく、また、そのほとんどは家族感染。
  • 学校や保育園におけるクラスターはないか、あるとしても稀
    インフルエンザの場合とは異なり、COVID-19が学校や集団保育の現場でクラスターを起こして拡がっていく可能性は低いと推定される。他の病原体との混合感染も少なくない。
  • 小児COVID-19症例は無症状〜軽症が多く、死亡例は少ない
    3歳未満(特に乳児)では重症化に注意が必要だが、どのような基礎疾患が重症化につながるのかは、まだよく分かっていない。
  • 殆どの小児COVID-19症例は経過観察または対症療法で十分。ただし、呼吸不全には注意
  • 妊娠・分娩において母子ともに予後は悪くなく、垂直感染は稀。しかし、新生児は重篤化する可能性あり
  • 学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しく、逆にCOVID-19死亡率を高める可能性がある
    学校閉鎖を行うことは、その他のsocial distancingと比べて効果は少なく、COVID-19死亡者の減少は2~3%に留まる。一方、医療従事者も子どもの世話のために仕事を休まざるをえなくなることから、医療資源の損失によるCOVID-19死亡数が増加し、結果として学校閉鎖はCOVID-19死亡率をむしろ増加させると推定される。
  • 教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしており、小児に関してはCOVID-19関連健康被害の方が問題と思われる
以上が専門家がまとめた現場での「医学的知見」の抜粋です。多くのデータをもとにした知見であり、大いに活用すべきと考えます。一般に子どものCOVID-19は大人に比べて軽症であることは事実のようです(実際に我々は子どものCOVID-19の診療に当たったことはありません)。
しかし、学校閉鎖・保育所の閉鎖はむしろ害が大きいとか、この知見のトーンは安心感を増幅させ、危険性を過小評価する事につながらないか心配もあり、緊急事態宣言解除後の第2波の流行に対して、より慎重に心の準備をしていなければならないと考えます。
300例を越す欧米での川崎病様の「子どもの多系統、過剰炎症症候群」
COVID-19パンデミックで子どもに極めて重症の過剰炎症反応症候群が報告されてきています。ヨーロッパでは、Paediatric Inflammatory Multisystem Syndrome associated temporally with SARS-CoV-2 infection(PIMS-TS)、アメリカではPediatric Hyrerinflammatory Syndrome and COVID-19などと呼ばれています。
診断基準(Royal Collage of Paediatric and Child Health、London)
  • 持続する熱、炎症(好中球増加、CRP上昇、リンパ球減少)、単一または多臓器機能不全(ショック、心臓、肺、腎、消化管、神経障害)。川崎病の診断基準を全てか部分的に満たす症例も含まれる。
  • 細菌性敗血症、ブドウ球菌性または連鎖球菌性毒素性ショック症候群(TSS)、エンテロウイルスなどによる心筋炎の除外。
  • SARS-CoV-2が陽性が陰性かは問わない。
5月2日 ボストン小児病院が主催するカンファレンスが開催され、WHO、CDC、NIH、ヨーロッパCDCなどの機関と国際的に認められた専門家1800人がウェビナーで参加したと報告されています。この症候群がサイトカインストームの臨床像を持つこと、D-dimer、フェリチン、肝機能、サイトカインパネルを含む一連の炎症マーカーの測定が推奨されること、心臓機能の低下、冠動脈の評価が必要なことなどが示され、この診断基準で、バイオバンキング用のDNA、RNA研究の国際的共同研究への登録の呼びかけなどが行われました。
日本では、5月7日川崎病学会が、「これまでのところ欧米のような症例は把握されていない」「現段階では一般の方に不安を与えることのないよう」との声明を発しています。新型コロナが流行し始めてからの当院での川崎病症例は、例年より少なく、重症例もありません。
しかし、一般的に軽症であるとされる(3歳未満、特に1歳未満は重症化の危険は高い)小児COVID-19が、最重症の多系統過剰炎症症候群を引き起こすとの報告に対しては、注目していかなければならないと考えています。