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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 中田成慶
新型コロナ対策で夏カゼ激減 2020年、子どもの感染症の変化
大阪府感染症発生動向調査週報2020年 第36週(8月31日〜9月6日)の速報です。連続した実線による折れ線グラフは昨年のデータで、今年第36週までの週ごとの統計データは、棒グラフで示されています。突発性発疹症を除いて、軒並み子どもの感染症が減少していることが、一目で分かります。
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新型コロナ対策は、コロナ以外の子どもの感染症の発症にも大きな影響を与えました。新型コロナの流行とコロナ対策によって、夏カゼ、および通年性の感染症のほとんどの発症が極端なまでに、押さえ込まれたのです。RSウイルス、咽頭結膜熱(アデノウイルス)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、手足口病、伝染性紅斑、ヘルパンギーナなどです。国立感染症センターの全国統計も全く同じ傾向を明らかにしています。また、オリンピックイヤー周辺で流行を繰り返してきたマイコプラズマ肺炎の流行もありません。
夏カゼ激減の影響、冬に向けての混合感染の危険
子どもの病気が少ないことは悪いことではありませんが、コロナ感染対策の緩和に伴って、これらの感染症がどのような形で復活し、どのような異なった流行パターンを示すのかは、今後の大きな問題です。インフルエンザの流行、複数の感染症の同時流行、重複感染の危険などが予想されるからです。小児科は、コロナ後の感染症の流行の変化に注意していかなければならないと考えています。
日本感染症学会の提言は、COVID-19と「細菌感染症の合併例は7%、RSウイルスやインフルエンザなどウイルス感染症との合併は3%」と報告しています。COVID-19の流行地でインフルエンザの流行が始まったら、その鑑別に苦慮することになります。「流行状況により、先にインフルエンザの検査を行い、陽性であればインフルエンザの治療を行なって経過を見ることも考えられます。」との記述がありますが、陰性であった場合には、新型コロナの検査にすすむルートは確保しておく必要があります。
受診控えの影響 と 医療機関への支援が必要
また、この間、受診控えによる受診の減少と、コロナ対策の必要性からの病床の制限、予約手術・予定入院・予定検査の先延ばし等で、医療機関の経営状況は悪化しています。小児科では夏カゼをはじめとする流行疾患の激減による患者減が加わり、経営悪化は危機的状況にあります。日経メディカル7/9によると、「患者減の最多は、小児科、耳鼻咽喉科や整形外科も打撃」との報道がなされていました。
小児科診療所・小児科病棟のみならず、多くの医療機関が、診療所、病院を問わず、運営を維持すること、命と健康のインフラである地域医療を崩壊から守ることが困難な状況に立ち至りつつあります。更なる診療報酬上の配慮、公的支援なしには、この危機を乗り越えることが困難な程度にまで状況の悪化は進んでいます。コロナで直接、間接に打撃を受けている、医療機関に対する公的援助の枠組みづくりが求められます。
欧米:新型コロナによる小児多臓器炎症症候群の発症
「新型コロナウイルス 感染症COVID-19診療の手引き第3版」は以下の記述がなされています。「イギリス、イタリア、米国、フランスなどで、複数の臓器に炎症を認める小児科多臓器炎症症候群の中に、川崎病に類似した例が相次いで報告された。」「免疫グロブリン療法に、不応例が多い」「今後日本でも小児例の増加に伴い、同様の現象が発生しないか十分に注視していく必要がある」「MIS-C: Multisystem Inflammatory Syndrome in Children, PIMS: Pediatric Inflammatory Multisystem Syndromeとも言われ、用語の統一を見ていない」と記載されています。
MIS-CまたはPIMSは、新型コロナ感染後、約3週間で発症し、川崎病よりも重症です。日本では、3月に新型コロナに感染・治癒したあと、3週間後に川崎病を発症した一症例が報告されていますが、小児の感染例が少ないこともあり、多臓器炎症症候群に相当する症例の報告はこれまでのところありません。
日本:川崎病症例は減少 4分の1に
一方、新型コロナ流行期間中、日本での川崎病の発症は夏カゼ同様に減少しています。私たちの病院では、年間平均で約20〜30例、2019年1月〜12月では24例、1カ月平均2症例でした。 ところが、今年1月から、現在(9月18日)までの約9カ月間で川崎病患者は4例(1,2,4,6月にそれぞれ1例ずつ)で、夏カゼ同様、激減しています。
いろいろな感染症にかかったあと、回復過程で免疫調節の異常が起こり、川崎病を発症させていたとすると、元々の感染症の減少で川崎病が減少しているのはうなずけますが、今後、感染対策が緩和され、流行性疾患が増加するとともに、川崎病も遅れて増加するものと思われます。複数の感染症の同時流行の危険性に加えて、川崎病の多発が重なる事態もありうること、新型コロナの方に感染例が増えるとまだ経験したことのない重症のMIS-C(PIMS-TS;「安心ねっとわーく」前号参照)発症の危険性も増すことになるのではないかと心配です。
今後、流行の第3波を含めて、子どもの新型コロナ感染症症例が増加した場合、元々日本で多発している(年間約1万5千例)川崎病に加えて、川崎病より手強いMIS-Cが多発することがないよう、新型コロナ感染症を2波で食い止められるよう、油断せず、感染防止に最大限の努力を続けて行く必要があると考えます。
年少児感染の危険性と子どもの強い感染性にも注意が
「成人例に比較して、症例数が少ない」こと、小児の重症度に関しては、「小児のCOVID-19患者は成人や高齢者よりも軽症」だが、「2歳未満(0~1才)と基礎疾患の有無が重症化の危険因子であった」、韓国の報告で、「家族内感染率は11.8%であった。発端者が10歳代での家族内感染率は18.6%と高く、成人と同等以上であった」ことを引用し、乳児の感染の危険性と10歳代の子どもからの家庭内感染の拡大の危険性に警鐘を鳴らしています。アメリカでは、大学が対面授業を始めた途端、流行が再燃した経過があり、注意が必要です。9月14日WHOは、スペイン・フランス・イギリスで流行の再燃による患者数の急増、インド・ブラジル・アメリカ等の流行で、新規患者数は1日あたり30万人を超え、これまでで最多となっていることで、警鐘を鳴らしています。
厚労省は10月1日から25日までは、高齢者優先にインフルエンザ予防接種を行い、小児等の他の該当者は26日以降に接種するよう9月11日に事務連絡を行いました。「お示しした日程はあくまで目安であり、前後があっても接種を妨げるものではありません」と併記されていますが、優先順位が高いはずの乳幼児や合併症のある小児への配慮がなされていないことに対して、日本小児科医会から異論が出されています。学校・幼稚園・保育所等での集団感染が多発しないよう、子どもに対するコロナ対策は、より慎重であるべきです。
PCR検査の更なる拡充と感染者の隔離対策の強化を
感染拡大防止には、 PCR検査が容易に受けられる体制作りと、判明した感染者を病院・宿泊施設等に隔離することが、対策の基本中の基本です。PCR検査は、今でも、〈潜伏期または無症状感染者であるかも知れない入院患者さん〉の入院時に、新型コロナPCR検査が認められていない状況が続いています。院内感染が多発する危険な事態は、基本的には、3月4月段階と変わりのない状態です。PCR検査の更なる拡充が望まれます。
感染者を収容する宿泊施設の体制は、その劣悪な対応も相まって、拡充されることなく、軽症者を含めていつの間にか、自宅療養が主要な対策として定着しかねない状況が作り出されています。感染拡大を防ぐために、無症状者・一部の軽症者を受け入れる宿泊施設の確保と充実も引き続き重要です。
特にハイリスクな高齢者施設での流行防止対策は重要です。札幌市では、一高齢者施設での流行で、病院に受け入れられずに施設内で12人の方が亡くなった苦い経験から、市と大学が高齢者施設からの受け入れ態勢を整備したとの報道があったのは、9月16日のことです。札幌市のように、全国どこでも、感染者を診断が確定したらすぐに、病院で受け入れる体制を構築し、高齢者施設での流行をクラスター化させない体制作りを可視化することが急務です。これは、高齢者施設の関係者すべてが望んでいることです。札幌や富山の高齢者施設で起こった、病院への受入が決まらず(受け入れてもらえず)、多くの高齢者が施設内で亡くならざるを得なかった状況を再現してはならないと考えます。
Go-Toキャンペーン下で、その危険性の側面から、今後の新型コロナの動向を、特別な注意を持って見ていく必要があると考えています。
参考:
●大阪府感染症発生動向調査週報 36w2020
(大阪府感染情報センター)
●新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 第3版 2020年9月4日
(診療の手引き検討委員会)
●今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて 2020年8月1日
(一般社団法人日本感染症学会提言)
●今季インフルエンザワクチン優先接種順に関する日本小児科医会の解釈
(公益社団法人 日本小児科医会、公衆衛生委員会)