阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
前々回の安心ネットワーク(09年3月)のテーマはHibワクチンの普及についてでしたが、今回は、ごく最近、経験したインフルエンザ菌敗血症の症例をご紹介します。
症例 2歳・男の子 インフルエンザ菌敗血症、喉頭蓋炎
主訴:
熱 嘔吐 のどの痛み 極端な元気のなさ

経過:
4月18日 夜、熱、嘔吐。のどの痛みが始まる。
4月20日 症状が続くため、小児科クリニックを受診。
4月21日 前日の検査でCRP5.1mg/dl、白血球16300、なお高熱、嘔吐があるため、ご紹介にて、当科受診。
一見して重症感あり。ぐったり。後部強直は認めないものの細菌性髄膜炎を疑うほどの状態。(DICの発症も考慮して凝固機能も最初から検査)
意識は正常、後部強直なし、咽頭発赤+、呼吸音異常なし。

検査:
髄液:細胞数2/3 → 髄膜炎は否定
CRP9.9mg/dl 白血球22800(Band33%,Seg57%) 凝固機能:異常なし
尿:蛋白2+ ケトン2+ WBC1~5
髄液、血液、咽頭ぬぐい綿棒を培養に提出
頚部表在エコー検査:扁桃の腫大は軽度、扁桃及び周囲の膿瘍形成は認めない
頚部リンパ節は小さなもの数個

入院後の経過:
「重症細菌感染症;咽頭炎+咽頭炎では説明できないfocus不明の細菌感染症」の診断で入院。PAPM/BP(カルベニン)投与で治療開始。
4月22日 解熱、全身状態は改善、のどの痛みがあり、嚥下をいやがるそぶりで、食欲がなく、嗄声があるとの母親からの申告があった。呼吸困難なく、泣き声もほぼ普通。
頚部レントゲン検査:喉頭蓋は軽度腫大(thumb print sign±)
4月23日以後、のどの痛みは軽減、消失、食欲、元気とも回復。
入院時の血液培養カルチャーボトルでG−菌の増殖が確認される。
4月27日 血液培養での起因菌が「インフルエンザ菌」と判明。同時に咽頭培養からも「インフルエンザ菌」が検出される。薬剤耐性はなく、ペニシリン、セフェムに対しては感受性有り。PAPM/BP継続投与。
4月28日 7日間の経静脈的抗生剤の投与終了。軽快退院。
敗血症の診断について
血液培養から病原菌が検出された場合、通常、菌血症(bacteremia)又は、潜在的(occult)菌血症と診断します。敗血症は、細菌や真菌などの感染によって引き起こされる全身性炎症反応症候群(SIRS)と定義されており、菌血症に全身性の反応が加わったとき、すなわち、体温、呼吸数、心拍数、白血球数の4項目のうち2項目以上(SIRS score)が異常となった時に、敗血症と診断されます。この症例では、全身状態の悪さと、白血球の増多で、敗血症と診断しました。
この症例の前日に、熱のみで受診し、CRP6.0mg/dl、白血球27000で、髄液検査に異常なく、「focus不明の細菌感染症」として入院した5歳の女の子がありました。全身状態は良好でしたが、血液培養で、肺炎球菌が検出され、この場合は、「肺炎球菌菌血症」の診断としました。
喉頭蓋炎について
インフルエンザ菌による侵襲性疾患としては、髄膜炎と喉頭蓋炎があげられます。喉頭蓋炎は、髄膜炎よりは、罹患年齢が高く、3~6歳に多いとされています。咽頭痛に続いて、急激な吸気性呼吸困難が進行、一般的には嗄声・犬吠様咳がない、顎を前に突き出し、開口し、舌を出して流涎し(drooling)、のけぞる姿勢(sniffing position)を取ることなどが特徴的とされています。側面のレントゲン検査では、喉頭蓋のthumb print signを、喉頭鏡での直視下で、サクランボ色で腫大した喉頭蓋で診断されます。
この症例では、咽頭痛と嚥下痛、軽度の嗄声、レントゲン検査での喉頭蓋の軽度の腫大+咽頭からのインフルエンザ菌の検出で、インフルエンザ菌による喉頭蓋炎と診断しましたが、幸い呼吸困難に陥るような急速な経過は取りませんでした。吸気性呼吸困難、嗄声、強いstridor(ゴロゴロ音)に対して、しばしば側面のレントゲン撮影を行いますが、実際に喉頭蓋のthumb print signを見たのはこの症例がはじめてです。
問題点
抗菌薬の使用と選択
髄膜炎の場合、抗菌薬の前投与が、髄液中の菌量を減少させ、起因菌診断を困難にし、診断確定の遅れから、神経学的な後遺症増加を決定するとの報告があり、非特異的な症状しか示さない乳幼児への根拠なき抗菌薬投与は避けるべきとされています。この症例には当てはまりませんが、focus不明、非特異的症状しか示さない熱の子どもに対する抗菌薬投与は、慎重であるべきとの考えで、臨床に臨む必要があります。
この症例から、抗菌薬使用に際しては、あらかじめの菌検索としっかりした根拠を持った使用戦略が必要であることを改めて教えられました。
今回の症例では、検出された菌の感受性検査では、ほとんどの抗菌薬に感受性があり、CTRXで十分であったはずでした。初診時の全身状態の悪さから、引きずられてPAPM/BPを使用しましたが、髄膜炎が否定されたところで、別の選択があり得たと反省しています。
家族感染対策
Red Book(アメリカ小児科医師会)によると、侵襲性のHib感染者の家族に対しては、Hibワクチンを行っていない4歳以下の子どもがいる場合と、家族に免疫不全者がいる場合には、接触のある家族全員にリファンピシンによる化学予防(20mg/kg 1日1回4日間、最大600mg、生後1ヵ月未満では10mg/kg)を行うことが推奨されています。
Hibへの感染防御:再びHibワクチンの普及を提案します。
Hibの感染防御には、莢膜多糖体であるpolyribitol ribose phosphate(PRP)抗体が関与し、母体由来の抗PRP抗体は出生~生後6か月までに漸減し、2~3歳までは低値に推移し、交差抗原(大腸菌などによる)への曝露により6歳以降で上昇します。この抗体値の分布とHib全身感染症の年齢分布が一致します。Hib感染症は、実際に経験したものにしか、その怖さは実感できません。Hibワクチンの普及が望まれます。
参考 :
小児科臨床ピクシス①/五十嵐 隆 総編集/中山書店(2008)
小児抗菌薬マニュアル/笠井 正志/日本医学館(2008)
小児感染症学/岡部 信彦 編集/診断と治療社(2007)