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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
新型インフルエンザは、2学期を迎えて、急速な流行拡大が危惧されています。これまでの流行の経過からは、新型ウイルスの毒性は季節性インフルエンザより、やや強い可能性がありますが、ほとんどの患者は、季節性インフルエンザと変わりなく治癒しています。感染対策は、感染のスピードを抑えることと、ハイリスク患者への対処、重症例の早期診断と適切な治療の確保へとシフトしてきています。
合併症を持たない健康な人にとっての基本姿勢
またたく間にパンデミックになり、夏でも流行が拡大するなど、感染力が強いことは確かです。新型に対する人々の免疫がないことも、感染拡大の大きな理由です。しかし、ほとんどの患者は、季節性インフルエンザと同様に自然治癒しています。
「避ける事はできそうにないので、かかるのは仕方がない。しかし、自然治癒が期待できるので、やみくもに恐れず、できる範囲の予防対策を行っていこう。かかった時には、強い解熱剤は使用せず、ゆっくり自宅療養しよう。咳が多くなったり、意識状態がおかしいと感じられたら、その時は早めに受診しよう。」と言うのが現実的な対応だと考えます。
ワクチンが有力な対処法と期待されていますが、まだ、どのような人に優先的に接種されるのか、副作用・安全性など、これから検討されることになっています。
個人の予防対策と他人への感染防止のためのエチケット
ウイルスの伝播を断ち切るための手立てとしては、手洗いとマスク、人ごみを避けること以外に具体的な方法がありません。飛沫感染と接触感染の防止対策は個人の心がけがポイントとなります。
手洗い:
石鹸と流水による手洗いを、頻繁に行う事です。流水が利用できない時には、擦り込み式の消毒剤も使用可能です。

マスクの着用:
咳のあるとき、マスクは他人に対するエチケットです。

学級閉鎖:
流行の拡大を遅らせる手だてとして、学校では学級閉鎖などの対策がとられますが、学級閉鎖の繰り返しなどで、長期休校などの事態も予想されます。こどもの教育・生活が阻害され、混乱に陥る危険性があり、長期休校の事態に、あらかじめの心づもりが必要となります。

くしゃみのエチケット:
ティッシュやハンカチで、口と鼻をおおって、咳やくしゃみをして、そのティッシュやハンカチは、くずかごに廃棄します。(ハンカチの廃棄は現実的ではありませんが)くしゃみ、咳の時、口や鼻を覆う物がない時は、ドラキュラくしゃみ(肘の内側【袖】にくしゃみや咳をする。ドラキュラがにんにくのにおいを避けるためにとる動作、マントがあればより効果的!)。手のひらは使用しないことが原則です。手が触れた場所から、感染が広がる危険性があるからです。

手で触れる場所・物:
使い捨てのナプキンでふき取ることが原則。
抗インフルエンザ薬はハイリスクの人と、実際に重症化した人に使用
ハイリスク児と5歳未満に投与、5歳以上には抗ウイルス薬の投与は行わない
乳幼児・小児の新型インフルエンザに対する抗ウイルス剤の使用のコンセンサス
アメリカCDCは5月13日「小児における新型インフルエンザAウイルス感染に対する予防と治療の暫定的手引き」を、国立感染症研究所 感染症情報センターは、5月20日「国内医療機関における新型インフルエンザ:抗ウイルス薬による治療・予防投薬の流れ Ver.2(以下、治療の流れ)」を、さらに、WHOは、8月21日「推奨される抗ウイルス剤の使用法―パンデミック(HINI)2009 briefing note 8」を発表しています。
「小児における抗ウイルス剤の使用法:インフルエンザ罹患で重篤、症状が悪化している人、合併症を持つハイリスクの人への速やかな抗ウイルス薬投与を推奨する。この推奨には、5歳未満の小児も、重症化のリスクが高いということで、含まれている。
5歳以上の健康な子どもは、長引いたり、悪化していなければ、抗ウイルス剤の投与は必要ない。」と言うのが、WHOの推奨する方法です。
抗ウイルス剤をむやみに使用することは、副作用や、薬剤耐性化をひきおこすことから、5歳以上では、投与を慎むべきであるというのが、日本を除いた世界の常識・コンセンサスとなっていることをしっかりふまえて、対応していく必要があります。
乳児への対応
国立感染症研究所は「タミフルの1歳未満の患児への安全性は確立されていないが、症状・所見から重症化が予想され、保護者へのインフォームド・コンセントが十分に得られた場合においては、医師の判断に基づき、投与することもありうる。」「リレンザ」も「適切に吸入できると判断された場合」(生理食塩水にといてネブライザーで吸入するなどの方法をとれば可能)、「1歳未満の患児、4歳以下の幼児に対する安産性は確立されていないが」同様に「投与することもあり得る」としています。
CDCによると、「1歳以下の乳児の季節性インフルエンザ治療におけるオセルタミビル、ザナミビルの使用に関する安全性のデータは限られているが、少なくとも重篤な有害事象はきわめて稀である」として、タミフルの推奨治療量を掲載しています。ご参考までに。
タミフルの推奨治療量
  推奨治療量 推奨予防量
生後3ヶ月未満 12mg、2回/日(5日間) 命に関わる判断がない限り使用しない
3~5ヶ月 20mg、  〃 20mg、1日1回
6~11ヶ月 25mg、  〃 25mg、1日1回
リレンザ(全年齢) 2ブリスター 1日2回 2ブリスター 1日1回
妊婦及び授乳中の婦人への対応
国立感染症センター「治療の流れ」では、治療上の有益性が危険性を上回る場合に投与することは可能であるとの記載でしたが、8月25日日本産婦人科学会は、「①発症後48時間以内の抗インフルエンザ薬の服用を勧める ②催奇形性に対してタミフルが安全であることが報告された ③母親が感染した際には母児別室とすること、その際、搾乳した母乳を第3者が与えること」との見解を発表しました。妊婦は、新型インフルエンザでは、重症化しやすいとされており、このような踏み込んだ見解に至ったものと思われます。
診療所や病院では、妊娠中の看護師、職員が罹患した場合には、早めの抗ウイルス薬の投与が考慮されなければなりません。
授乳については、薬剤添付文書には、避けるように指導すると記載されます。ウイルス血症を起こすことはないので、授乳は禁忌ではないとの判断は可能ですが、母乳を通して移行する薬剤量などの基礎的データを含めて、検討にいたる経過も公表して頂きたいと思います。
合併症、基礎疾患を持つ子ども
手洗い、マスクなどの個人防衛対策がとられます。罹患が疑われた時には、抗ウイルス薬の投与が考慮される必要があります。呼吸器疾患を含む慢性疾患、心・腎・肝・血液疾患、神経疾患、糖尿病、免疫低下などの疾患が対象です
CDCによるハイリスク患者
5歳未満の子供。季節性インフルエンザの重篤な合併症のリスクは2歳未満の子供で最も高くなる。65歳以上の成人。
以下の状況である者:
慢性肺疾患(喘息を含む)、心疾患(高血圧を除く)、腎疾患、肝疾患、血液疾患(鎌状赤血球症を含む)神経疾患、神経筋疾患または代謝異常(糖尿病を含む)
薬剤またはHIVによる発生を含む免疫抑制状態
妊娠中の女性
長期間アスピリン療法を受けている19歳未満の者
介護施設及びその他慢性疾患介護施設居住者
重症化の徴候に注意を!
呼吸器症状(ARDS、呼吸不全)と意識・精神症状(脳症)
新型インフルエンザウイルスは、咽頭で増殖する以外に、気管支・肺でも増殖する能力を持っているとされています。重症化は主に、肺炎と脳症への進展が問題です。
WHOの文書では、重症化の徴候として、以下の6項目が挙げられています。
  • 頻呼吸(多呼吸)・呼吸困難
  • 蒼白
  • 血痰または色のついた痰
  • 胸痛
  • 精神状態の変化(異常)
  • 3日以上の熱・低血圧
日本小児科学会は、8月17日厚生労働省に対して、保護者がインフルエンザ脳症の初期の症状に気付き、早期に受診するよう啓発が必要との要望書を提出していますが、その中で、注意すべき点をまとめています。
A.「呼びかけに答えない」などの意識レベルの低下がみられる。
B.けいれん重積およびけいれん後の意識障害が持続する。
C.意味不明の言動がみられる。
また、強い解熱剤(例:ボルタレン、ポンタこれらと同等の成分の入っているもの)はインフルエンザ脳症の予後を悪化させるので、解熱剤の使用への注意を呼びかけています。
重症例と判断された場合、当院のような2次医療機関、または重症度のよっては直接3次医療機関にご紹介いただく必要があります。(抗インフルエンザ薬の投与と場合によってはメチルプレドニゾロンのパルス療法を開始します。)厚生労働省研究班の作成した、インフルエンザ脳症のガイドラインにそって対処されるのが良いです。
今年8月経験したインフルエンザA+の肺炎 7歳 男児の症例
8月10日:
咳が始まる。咳は日ごとに増加。

8月13日:
39.0℃、痰の絡む咳、嘔吐数回。

8月14日:
39℃、ぐったりして起き上がる力がなく、父親に横抱きにされて、当科受診。
数日前、一緒に遊んだ従兄弟が数日前にインフルエンザAに罹患。
意識は正常 軽度の呼吸困難 酸素飽和度93〜94%  呼吸音;左側に湿性ラ音を聴取
項部強直なし
胸部X線:左肺門~下肺にかけて広汎な肺炎
(肺炎は左側に限局、ウイルス性肺炎に特徴的な間質性肺炎ではない)
CRP4.2mg/dl 白血球4200 好中球89% インフルエンザ迅速検査A+
「細菌性(又はマイコプラズマ)肺炎 及び 新型インフルエンザ」の診断で入院。
治療 CTRX MINO タミフル (7歳でありミノサイクリンの使用については十分なインフォームドコンセントの上で使用)

8月15日:
38.2℃ 夕方37.4℃

8月16日:
解熱

8月18日:
インフルエンザ迅速検査A+(タミフル服用5日目でなおインフルエンザ+)

8月19日:
咳は軽度、胸部X線:肺炎は著明に改善し、退院。

患児は、CRP4.2mg/dl。熱に先行する咳があり、細菌性(又はマイコプラズマ)肺炎の発症と同時にインフルエンザに罹患したものと考えています。悪化を危惧しながら観察しましたが、幸い呼吸不全には至らず、回復しました。ハイリスク児、合併症を持つ子どものインフルエンザには、慎重な対応を心がけて行きます。
参考 :
国立感染症研究所 感染症情報センター(IDSC)
2009年8月26日 新型インフルエンザ(パンデミック(H1N1)20
IDSC:国内医療機関における新型インフルエンザ(A/H1N1)
抗ウイルス薬による治療・予防投薬の流れ Ver.2(09/5/20)
WHO
CDC   May 6, 2009 11:00 PM
厚生労働省 インフルエンザ脳症ガイドライン