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阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
RS細気管支炎の季節になってきました。10月からは在胎35週以前に生まれた生後6ヶ月以内のべビーにRSウイルスに対するヒト化モノクローナル抗体(パリビズマブ=シナジス)の投与が始まります。細気管支炎の原因病原体について整理してみました。
2008年11月発行の「あんしんネットワーク第43号」で取り上げました、アメリカCDCが家庭向けに発信しているパンフレットを再掲してご紹介していますので、併せてご覧ください。

RSウイルス
臨床症状
気道の分泌物が増える特徴があります。
細気管支炎:
咳、鼻水が2~3日続いた後、呼気性喘鳴、多呼吸、陥没呼吸などが現れてきます。肺炎の合併、喀痰の貯留による無気肺を起こしやすいのも特徴です。慢性肺疾患や先天性心疾患のある子どもでは、特に重症化しやすく、呼吸不全に至り、人工換気療法を必要とすることがあります。通常は約1週間で軽快していきます。

無呼吸:
生後1ヵ月未満の新生児、特に早産未熟児では、多く見られる病型です。

その他:
ADH分泌異常症候群(SIADH)をきたし、低ナトリウム血症を呈することがあり、輸液療法の際の注意点となっています。

病原体
RSVは直径80~350nmの球形をした、エンベロープをもつ、1本鎖RNAウイルスで、Paramixovirus科のPneumovirus属に分類されます。
RSウイルスは気道から分泌された後、カウンター上で約6時間、布ガウンやティッシュ上では30~45分、手の上では25分ほど、感染力を持ちます。感染対策に注意が必要です。
疫学
潜伏期は通常3~6日。平均4日。乳幼児に最もインパクトが大きく、温帯地域では冬にピークがあり、初春まで流行が続く傾向があります。また、散発的には、夏にも集団発生の報告があり、1年中注意が必要となってきています。
乳幼児では1歳までに半数以上が、2才までに100%初感染を受けます。終生免疫は成立せず、再感染が普遍的に認められ、一生の内、何回か感染を繰り返すことが分かっていますが、年長になるにつれて、下気道炎としての重症さは低下します。今後、高齢者の施設での集団的な発症の危険性が指摘されています。
検査
鼻咽頭ぬぐい検査で、迅速診断キットにより、15分で結果が得られます。
治療・補助療法
対症療法・支持療法が主体となります。輸液、加湿、適切な体位、酸素投与、インスピロン治療、呼吸不全の場合の人工換気治療など。
薬剤治療
無呼吸の場合にキサンチン製剤使用が考慮されます。
副腎皮質ホルモン剤:
細気管支炎に対して、教科書的には副腎皮質ホルモン剤が有効とのエビデンスは示されていませんが、最近では有効とする報告も見られます。

免疫グロブリン:
明らかな治療効果はないとされています。

抗生物質:
ウイルス性疾患であり、2次感染の場合のみ使用されます。

シナジスによる予防
RNAエンベロープ蛋白の一つであるF蛋白に対するヒト化単クローン抗体(パリミズマブ、商品名シナジス)の月1回の筋注です。以下の子供に注射の適応があります。
高価な薬品ですが、これまで10%以上であった重症例を3~5%に低下させます。
パリミズマブ(シナジス)のわが国における適応
  • 胎28週以下の早産で、12ヶ月齢以下の新生児及び乳児
  • 在胎29週~35週の早産で、6ヶ月齢以下の新生児及び乳児
  • 過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症(BPD)の治療を受けた24ヶ月齢以下の新生児及び乳児
  • 24ヶ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児及び乳児
ヒトメタニューモウイルス
ヒトメタニューモウイルス(Human Metapneumovirus.hMPV)はRSウイルスと同じParamixovirus科のPneumovirus属に分類されます。RSウイルスとは近縁のウイルスで、2001年に呼吸器ウイルスとして新たに発見されました。
6ヶ月頃から感染が始まり、2歳までに約50%が、10歳までに100%が初感染します。
流行時期は、3~6月(late spring~early summer)で、細気管支炎が特徴ですが、RSウイルス感染症と比べて、高熱、熱性けいれんなどの合併が多いとされています。
乳幼児が春に喘鳴、発熱で受診し、RSウイルスが迅速診断キットで陰性の場合、メタニューモウイルス感染を疑う必要があります。
ヒトボカウイルス
ヒトボカウイルス(HumanBocavirus.hBoV)は喘息を誘発・悪化させ、細気管支炎を起こす原因ウイルスとして、2005年に発見されました。2歳~15歳の喘息患者で、発作時の病原体検査を行ったところ、ヒトボカウイルス12.7%、肺炎マイコプラズマ13.2%、RSウイルス7.8%、ヒトメタニューモウイルス2.7%が検出されたとの報告がフランスから出されています。
急性細気管支炎と副腎皮質ホルモン剤
2009年版のRed Bookやほとんどの教科書には、RSウイルス細気管支炎に副腎皮質ホルモン剤の効果が証明されていないので、勧められないとの記述があります。しかし、細気管支炎後に喘鳴、喘息の頻度が高まることが観察され、reactive airway disease(RAD)と呼ばれ、アトピー素因との関連などが検討されており、今年5月のThe NEWENGLAND JOURNAL of MEDICINEでは、エピネフリン吸入とデキサメサゾンの経口投与が細気管支炎に有効との論文が出ました。細気管支炎に対する副腎皮質ホルモン剤の使用については今後更に検討が必要ですが、喘息素因がもとにある場合などには、積極的に使用することが有益な場合も多いのではないかと考えられます。
呼吸困難が強く、酸素投与で対応が困難なとき、「小児気管支喘息ガイドライン2008」の急性発作への対応を参考に、副腎皮質ホルモン剤とイソプロテレノールの持続吸入療法を併用することが、よい選択枝になると考えます。
参考 :
Red Book 2009 (Report of the Committee on Infectious Diseases)
American Academy of Pediatrics
The NEWENGLAND JOURNAL of MEDICINE Vol.360:2079-2099
May 14, 2009 The JOURNAL of PED. Aug. 2009 Vol.155 No.2 286