阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 病院長 ) : 中田成慶
はじめに
毎年ゴールデンウィーク前後から、細菌性腸炎が増加します。魚貝類の生食が野外でも食べられる機会が増えたこともあってか、小児の腸炎ビブリオ感染症を経験しました。その増殖の速さ、潜伏期の短さに驚きつつ、感染性の腸炎の潜伏期を整理してみました。また、日本外来小児科学会で準備中の腸炎ガイドラインの一部を、トピックスとしてピックアップしました。
特徴的な細菌性腸炎の3症例
【症例1】カンピロバクター腸炎 1歳9ヶ月 粘血便のあと赤褐色軟便が続く
阪南中央病院小児科のトピックス
0日 :
焼き鳥屋さんで家族で食事
4日目 :
熱と下痢 下痢に粘血が混じるようになる。
排便時の痛み(しぶりばら)あり。
下痢、しぶりばら、血便が続くが、週末になり、元気さはあったので、自宅で観察。
9日目 :
全体が赤褐色の血便が続く。
軟便程度。腹痛なし。当科初診
CRP 1.4mg/dl 白血球6700 血小板32万
凝固機能:異常なし
 
腹部エコー検査:回盲部および上行結腸の腸管壁の肥厚あり
経過からカンピロバクター腸炎を疑い、クラリスロマイシン投与開始。
10日目 :
血便は消失
便培養検査 Campylobacter jejuni / coli を検出
【症例2】カンピロバクター腸炎 8歳 下痢、嘔気、血便
阪南中央病院小児科のトピックス
0日 :
焼き鳥屋さんで家族で食事
4日目 :
腹痛、下痢、嘔吐
5日目 :
37.9℃、血便、しぶりばら、CRP1.45mg/dl 白血球6700
血小板32万
凝固機能:異常なし
便:ロタウイルス(-) ノロウイルス(-)
腹部エコー検査:大腸全体の壁の肥厚
回盲部リンパ節腫大
入院 抗菌薬なしで、輸液、対症療法
7日目 :
症状消失し、軽快退院
便培養検査 Campylobacter jejuni / coli を検出
【症例3】腸炎ビブリオ腸炎 14歳 突然の嘔吐と水様下痢
阪南中央病院小児科のトピックス
0日 :
和歌山県に家族旅行、昼に海鮮バーベキュー(ホタテ・ハマグリ)とシラス丼
1日目 :
午前8時ごろから激しい腹痛、嘔吐、水様下痢、しぶりばら 熱はない
便:ノロウイルス(-) ロタウイルス(-)
  CRP < 0.02mg/dl 白血球32800(好中球91%)
  プロカルシトニン < 0.5ng/ml
腹部エコー検査:回腸末端からS字状結腸末端までの
          壁の肥厚
 
          ⇒細菌性腸炎を強く疑わせる
入院:細菌性腸炎として入院
    抗菌薬は使用せず、輸液および対症療法
3日目 :
軟便程度 軽快退院
便培養検査:Viblio parahaemolyticus を検出
同じものを食べた他の家族からの発症はなし
腸炎ビブリオ腸炎
腸炎ビブリオは、好塩基性のグラム陰性桿菌で、好塩性で、海水中に生息し、魚介類を生食することで、ヒトに感染します。
1980年代前半までは細菌性食中毒のおよそ半数を占め、発生数、患者数とも第1位でしたが、その後減少傾向となり、魚介類の生食が少ない子どもでは、近年まれな感染症となっています。しかし、寿司、刺身をはじめとする魚介類の生食があるかぎり、散発的な発症や、局地的なアウトブレイクは必ず発生します。夏場では、生食材の常温保存が危険なことを再認識する必要があります。
潜伏期は12時間前後で、激しい腹痛を伴う下痢(精液臭あり)、時に血便、嘔吐、熱で発症し、数日で回復します。基本的には、対症療法ですが、抗菌薬を使用する場合は、ニューキノロン、ホスホマイシンが選択されます。
予防は魚介類の低温保存、特に夏場では魚介類を常温保存しないことが重要です。魚介類・肉類を常温に置かないことは、食中毒予防の原則です。真水や高温に弱いため、真水で洗う、加熱調理することが予防につながります。
腸炎ビブリオの潜伏期は極めて短いのが特徴です。腸炎ビブリオは特に増殖の速い細菌として知られており、至適(20℃以上)ではおよそ8~10分に1回分裂します。「大腸菌は20~30分に1回の割合で分裂」し、「同じ4時間後には1個の大腸菌は約4000個になるのに対して、1個の腸炎ビブリオは1000万個以上に増殖する計算になる。」(フリー百科事典Wikipedia)。この増殖の速さが、潜伏期の短さを説明することになります。
細菌性およびウイルス性腸炎の潜伏期
ウイルス性腸炎(主にノロ・ロタウイルス)は潜伏期が短く、細菌性腸炎は潜伏期が長めとの考えは成り立ちません。細菌性腸炎では、症例①・②のように潜伏期が長いものもありますが、腸炎ビブリオのように数時間でも発症するものがあること知っておくことは重要です。
阪南中央病院小児科のトピックス
小児急性胃腸炎のガイドライン(日本外来小児科学会作成中)
現在、日本外来小児科学会は、小児急性胃腸炎診療ガイドラインを作成中で、小児急性胃腸炎の診療の場での危険信号がまとめられています。臨床現場で、重症度の判別に役立てる指標となるものです。是非、参考にしてください。
危険信号(red flag)
1. 見た目に調子が悪そう、もしくは段々調子が悪くなる
2. ちょっとした刺激に反応する、反応性に乏しいなどの反応性の変化
3. 目が落ち窪んでいる
4. 頻脈
5. 多呼吸
6. 皮膚緊張(ツルゴール)の低下
7. 手足が冷たい、もしくは網状チアノーゼ
8. 持続する嘔吐
9. 大量の排便
10. 糖尿病、腎不全、代謝性疾患などの基礎疾患がある
11. 生後2ヶ月未満
12. 生後3ヶ月未満の乳児の38℃以上の発熱
13. 黄色や緑色(胆汁性)の嘔吐、もしくは血清嘔吐
14. 反復する嘔吐の既往
15. 間欠的腹痛
16. くの字に体を折り曲げる、痛みで泣き叫ぶ、もしくは歩くと響くなどの強い腹痛
17. 右下腹部痛、とくに心窩部・上腹部から右下腹部に移動する痛み
18. 血便もしくは黒色便
参考:
RED Book 30th Ed.
日本外来小児科学会 小児急性胃腸炎ガイドライン作成委員会
和歌山市感染症情報センターHP
感染症専門医テキスト 日本感染症学会 南江堂