阪南中央病院

阪南中央病院小児科のトピックス
小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶
救急疾患としての血球貪食症候群
最近、突発性発疹症により引き起こされた血球貪食症候群(HPS)を経験しました。HPSには先天的な遺伝子異常による1次性(または原発性)のものと、ウイルス感染、細菌感染、悪性腫瘍、膠原病などの疾患に続発する2次性のものがあります。このうち、ウイルス感染に続発するものをウイルス関連血球貪食症候群(virus-associated hemophagocytotic syndromeVAHS)と呼びます。小児科分野では、細菌性髄膜炎、敗血症、脳炎・脳症などの発熱を伴う重症救急疾患の一つとしてVAHS・HPSを認識し、緊急対応が必要な救急疾患として対処することが求められます。
HPSは血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytotic lymphohistiocytosis:HLH)とも呼ばれます。
HLH 2004 :HLH診断ガイドライン
HLHは、以下のいずれかを満たすこと
A. HLHに一致する遺伝子異常を有する PRFmutations , SAPmutations
B. 以下の8項目のうち5項目を、満たす場合
1.発熱
2.脾腫
3.二系統以上の血球減少
 Hb<9.0g/dl(乳児では<10g/dl)、血小板<10万/μL、好中球1000/μL)
4.高トリグリセライド血症(空腹時>265mg/dl)、又は低フィブリノーゲン血症
 (<150mg/dl)
5.骨髄、脾臓、またはリンパ節の血球貪食像があり、悪性所見がない
6.NK細胞活性低下または欠損(正常値はそれぞれの検査基準に従う)
7.血清フェリチン値>500ng/ml
8.血清可溶性CD25(sIL-2R)値>2400U/ml
Verbsky JW,2006
(症例)1歳5か月 女児
第1病日:
(7月7日)高熱 血液検査でCRP0.2mg/dl 白血球4900 血小板16.2万
アデノウイルス迅速検査(—)

第2~3病日:
高熱が続く。

第4病日:
40.3℃、CRP0.9mg/dl 白血球2800 血小板8.6万
インフルエンザ迅速検査(—)

第5病日:
40.0℃ うとうとの傾眠状態、起き上がろうとしない、震えあり。
当院へご紹介いただき初診
意識状態:JCS10(2〜20) CRP0.7mg/dl 白血球1400(好中球1036)
血小板5.7万
頭部MR検査:brainに器質的異常なし、swellingなし
髄液検査:細胞数2/3で、髄膜炎は否定
骨髄検査:悪性腫瘍否定、明らかな貪食像は認めない
進行性のHPSと判断し、当日、府立母子センター血液腫瘍科に転院していただく。

母子センターでは、白血球は1200、血小板3.5万に減少、しかし、第7病日に解熱とともに発疹が出現し、以後状態、検査データも改善し、突発疹によるHPSと診断されました。抗生剤(CTRX)とACV(単純ヘルペス感染症がきっかけになっている可能性、ヘルペス脳炎による意識障害の可能性を考慮して)投与が行われましたが、副腎皮質ホルモン剤やγグロブリン投与なしに軽快したとの報告をいただきました。入院中、フェリチン710、sIL-2R2033、中性脂肪581mg/dlに上昇していました。
HPSの基本病態
HPSは、以下のように進行すると考えられています。
①感染を契機に、細胞障害性Tリンパ球(CTL)やNK細胞が異常な活性化、増殖
②異常に活性化したCTL/NK細胞により高サイトカイン血症(cytokine storm)を呈する
③そのサイトカインにより単球/マクロファージ系細胞が活性化する
④それらの細胞により、サイトカイン産生、血球貪食、臓器浸潤がおこる
⑤CTL/NK細胞やマクロファージ系細胞の活性化を消息させる機序が適切に働かない
 このため②~④の悪循環に陥る。
HPSの臨床症状や検査所見は、活性化したリンパ球や組織球系の臓器浸潤・障害と過剰に産生されたサイトカインにより引き起こされます。主なサイトカインは、インターフェロンγ、インターロイキン1(IL-1)、IL-6、TNF-α(tumor necrosis factor-α)などです。
主な臨床症状と検査所見
発熱:
IL-1、IL-6、TNF-αが発熱中枢に作用し、発熱を誘導する。

汎血球減少症:
各種のサイトカインによる造血抑制とアポトーシス亢進による。血球貪食による血球減少は2次的なものと考えられている。

高トリグリセリド血症:
TNF-αがNOを介してトリグリの代謝を低下させるため。

高フェリチン血症:
TNF-αがNOを介してトリグリの代謝を低下させるため。

可溶性IL-2受容体(sIL-2R):
活性化リンパ球から産生される。

低フィブリノーゲン血症:
活性化マクロファージによりプラスミノーゲンアクチベーターが産生され、プラスミン血中濃度が上昇し、フィブリノーゲンが分解される。

血管透過性の亢進:
IL-1、IL-6、TNF-αなどが血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に作用。

DIC:
サイトカインによる血管内皮細胞の障害 + TNF-α、IL-1が血管内皮細胞に作用し、プラスミノーゲンインヒビター-1や組織トロンボプラスチンの産生を促進し、血栓準備状態からDICに進む。

トランスアミナーゼ/LDH上昇:
TNF-αが細胞内のミトコンドリアに障害を与え、細胞のapotosisを誘導する。このためAST(GOT)優位のトランスアミナーゼ上昇となる。

感染症関連HPS
細菌、寄生虫、ウイルス、真菌など、さまざまな感染症でHPSが報告されています。特に重要なものは、EBV、CMV、単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹ウイルス、HHV-6(突発性発疹症の原因ウイルス)などのヘルペス属ウイルスによるもので、原因の多くを占めます。
EBウイルスによるHPSは非常に重篤な場合が多いこと、新生児期のHPSでは単純性ヘルペスが約30%であること、約10年ほど前にアデノウイルス7型による感染症が乳幼児で流行し、重篤な肺炎に高頻度でHPSを合併したことなどを記憶しておく必要があります。
主な治療 現場と小児血液腫瘍専門医との連携
HPSの誘因となる原疾患の治療に加えて、汎血球減少症やDICなどへの支持療法が必要になります。HPSに対する直接的な治療は、高サイトカイン血症の改善と、異常に活性化したリンパ球・マクロファージの働きを抑制することが目的となります。この場合、ステロイド、γグロブリンなどが使用されます。重篤な場合、活性化マクロファージの抑制効果の強いエトポシド、デキサメサゾン、CyAによる多剤併用療法が行われます。2006年日本小児白血病・リンパ腫研究グループ(JPLSG)HLH委員会での治療研究が開始されています。
ステロイドやγグロブリンで進行が抑えられない場合、進行が急激な場合、新生児及び1〜2歳未満で1次性HPSの可能性が高い場合、重症化しやすいとされるEBV関連HPSの場合には、地域の2次医療機関としての我々の守備範囲を超えており、3次医療機関(小児血液腫瘍専門医)での治療をお願いしなければなりません。今回の症例は、府立母子センターに迅速な受け入れをしていただき、診療所→阪南中央病院→府立母子センターの連携がスムーズで、1次〜2次〜3次の連携がうまく機能した例となりました。関係の方々に感謝致します。
参考 :
血球貪食症候群の病態と治療 鈴木信寛 日本医事新報
No.4416(2008年12月13日)
血球貪食性リンパ組織球症 五十嵐隆編集 神薗淳司
小児科診療ガイドライン 総合医学社
血球貪食症候群 小林一郎 小児内科 Vol.41 No5 2009-5 p774~776